東京国立博物館で開催されている日本国宝展に行ってきた。展示品全てが国宝というなんとも贅沢な展覧会だ。
東博では平成に入って3回目の国宝展ということで、「割とやってるな」という印象だがどれも本当に貴重な品々なので血まなこになって一つ一つの展示品を凝視してきた。来場者から注がれるアツすぎる眼差しで、ハニワは割れ、巻物は燃え、仏像は眠りから覚めて逃げ出す。そんな日本版ナイト・ミュージアム的な展覧会かと思われるかもしれないが、そこは国宝。どれも微動だにせずさすがの貫禄を見せつけられた。
そんな日本国宝展の作品の中から記憶に残ったいくつかの作品を何回かに分けて紹介したい。
まずは
地獄草紙
地獄草紙とはその名の通り地獄を描いた巻物で12世紀頃に作られた。現在は4巻が残っており、その中で東京国立博物館本と奈良国立博物館本の2点が国宝に指定されている。今回展示されていたのは奈良国立博物館本だ。
12世紀頃というと後白河天皇の時代、つまり平安時代の末期ということになる。長く平和が続いた平安の世だが、末期に近づくにつれ世の中では飢饉や戦など生活をおびやかす不幸な出来事が頻発するようになり、人々は大きな不安を抱えるようになる。そして不安を抱くと恐怖が生まれる。
地獄草紙はそんな中で作られたのだ。貴族たちは恐怖の象徴である地獄を人の手で描くことによって、世の中にはびこる恐怖や不安といったまでも人の手で掌握してしまおうと考え、この絵巻を作ったと考えられている。恐ろしい地獄草紙に救いを求めていたのだ。
さて、そんな地獄草紙だが奈良国立博物館本には屎糞所、函量所、鉄磑所、鶏地獄、黒雲沙、膿血所、狐狼地獄という7つの地獄が描かれている。
どれも大変な苦痛を受ける恐ろしい地獄で、現世で犯した罪の種類によって落とされる地獄が変わってくるのだ。
その中で気になるものがある。それが
鶏地獄
である。
他の地獄には屎糞や膿血などいかにも気色の悪そうな言葉がついているが、鶏地獄だけ明らかにテイストが違う。怖くなさそうである。下手したら鶏肉の食べ放題のような雰囲気すらある。鳥貴族のにわとりパーティーなのか。そうなのか。
そんな期待に胸を膨らましたが絵巻にはこんな絵が描いてあった。
思っていたより恐ろしい鶏だった。さすが地獄だ。
この鶏地獄、火をまとった恐ろしいニワトリに追いかけられて突かれる地獄で、現世で生き物を殺生してしまった人間が落ちる地獄である。
なんとも恐ろしい…誰でも蚊やゴキブリの1匹や2匹殺してしまったことがあるだろう。そういう人間は皆この鶏地獄行きだ。火をまとった鶏に延々と追いかけられる。
しかし、火をまとった鶏、、、
火をまとった鶏