Playground Becomes Dark Slowly @日比谷公園

東京都が数年前から都立公園を舞台に開催している「花と光のムーブメント」というイベントの一環で日比谷公園にて開催されているアートインスタレーション。会社が近いのでお昼休みや仕事終わりにさくっと観られてよかった。

大巻伸嗣氏、永山祐子氏、細井美裕氏による3作品が展示されておりけっこう豪華。一番良かったのはやっぱり大巻伸嗣の「Gravity and Grace」ですな。

Gravity and Grace/大巻伸嗣

少し前に新国立美術館で展示されていた同作が今回は日比谷公園に出現。美術館での展示も観たけど置かれる場所が違うだけでこんなに印象が変わるのかと驚いた。

新国立美術館での展示

美術館の中にあると展示室のスケールが基準になるのでかなり大きく感じたし、迫力というか避け難い圧倒的な力を感じた。Graceは恩寵、つまり神の恩恵という意味合いだが、神の畏怖、人が逆らえないパワーのようなものを感じたのだった。

一方で公園に設置されていると周りには作品よりも大きな木々やビル、そして果てのない空が広がっている。そのスケールの中で観ると美術館で観た時よりも小さく感じたし、避け難いパワーのようなものはあまり感じなかった。

むしろ壺に描かれた花や鳥たちと、公園という空間が調和していて、かなり温かみを感じることができた。この文脈においてはGrace=人々が生きるこの世界を創った神の恩恵という捉え方の方が適切だろうか。畏怖ではなく包容力を感じた。

美術館と公園の感じ方の違いから想うのは、自然は人々が生きていく文字通り土台(大地がなければ人間は生きられない)であり人々を寛容に受け止めてくれる一方で、時には人々に対して牙を剥き人類はそれをなす術なく受け入れる他ないという、自然の二面性である。

この視点に気付けただけでも、近いタイミングで大きく異なる2つの環境で同じ作品を観ることができた意義は大きい。

昼間も観たけどやっぱり夜の方がいい

はなのハンモック/永山祐子

建築家の永山祐子による作品。誰だろうと思って調べたら新宿の歌舞伎町タワーの外観をデザインした人なのね。今後も大阪万博でパナソニックグループパビリオン「ノモの国」と「ウーマンズパビリオン in collaboration with Cartier」を手掛けたり、東京駅前にできる日本一の高層ビル「TOKYO TORCH」の低層部デザインを手掛けたりと気鋭の建築家だ。

廃棄予定の漁網で作られたハンモックの下には花が咲き、上には空が広がり、自然に挟まれてリフレッシュできる。アートというよりは、構造物によってその場での行動を促すという建築的アプローチだと感じたが、作っているのが建築家だからそりゃそうか。

こっちは昼でも問題なし

率直に受け取ると、花と空に挟まれたハンモックで自然に意識を巡らせましょうという割とありきたりな、だいぶ優等生っぽい作品だなぁと感じた。

これも建築家っぽいアプローチな気がしていて、アートに比べて建築は一般大衆に受け入れられることを求められるせいか建築家はとかく大上段に構えがちというか、品行方正な大義名分を振りかざしがちに感じることが多い。建築の場合はそれでいいし、その大義名分が率直に表現されているわけではないので建築を味わう余韻があるのだが、ことアート作品となるとどうしても物足りなさを感じてしまう部分が正直ある。大巻伸嗣という巨匠と並べられてしまうと余計にそれが目立ってしまうというのもあるかもしれない。

やたらと講釈をたれてしまったが、寝転ぶと普通に気持ちいいので、そういう空間を作ったという意味では建築家の作品としては申し分ないのだろうけど。

もう一つ、もともとこの広場に生えているものだが真ん中に椰子の木が生えていて、その周りに山のような形のハンモックが広がっている姿は砂漠の中のオアシスのような感じがした。広がっているのは砂漠ではなく”花の山”だけれど。普段、自然を感じる暇もなく忙しく働いている人々の砂漠のように渇き切った心に潤いを、的なメタファーが込められているとしたら面白い。

余白史/細井美裕

サウンドインスタレーションを数多く手掛ける細井美裕の作品。作品のために公園内で採取された音が重なるように公園内のスピーカーから再生されている。イベント期間中に集められた音も流れることがあるらしい。

最初は流れているこの音が作品だと気が付かなかった。そのくらい公園の中で流れる音に馴染んでいる。というか公園で採取された音が公園で流れているわけで、馴染んでいるに決まっている。他2作品の引きの強さと比べてだいぶ地味だけど大丈夫か?とついつい不安になる。これが作品だと認識してる人、かなり少ないんじゃないか?

そんな不遇さは感じつつも作品としては興味深い。思い出すのは、以前なにかのアートフェスで観た同じく日比谷公園を題材に公園内のあらゆる文字(看板や銘板など)を集めてそれを時系列に並べて一冊の本にするという作品だ。その作品も日比谷公園の歴史の厚みにフォーカスしていたわけだが、今回の作品はそのサウンド版と言えるだろう。

公園というのはあらゆる人々に開放された場所なので音にもかなり多様性が表れてくるはずだ。時代によって果たしてその音は異なるのか?それとも公園だからこそ変わらないのか?ぜひ遠い未来でこの作品とその時の音を聴き比べてみたいものである。

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というわけでコンパクトながら三者三様、日比谷公園という場所性を考えさせてくれる良い展示であった。忙殺される日々のいい息抜きになるのでこれからも継続的に開催してほしい。

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