ロッテが創業70周年を記念して作った「ベイビーアイラブユーだぜ」というアニメーションを見た。
企画・プロデュースは川村元気、アニメーション制作はボンズ、さらにBUMP OF CHICKENが楽曲提供とかなり気合の入ったプロモーションだ。
この動画を見ていて気になったことがある。それは序盤に出てくるこののど飴の広告。
この構図、どこかで見たことある・・・記憶をたどり思い当たったのがこちら。
2017年の7月に放送されたタモリ倶楽部のロシア特集だ。ロシア好きで知られる声優の上坂すみれが出演しており、そのコーナータイトルのグラフィックが酷似している。
構図のインパクトに思わずテレビ画面を撮ってしまったのだが、一年半近く経って似た構図を見た瞬間に思い出すとは自分でも気が付かないくらい印象に残っていたらしい。
まさかタモリ倶楽部が元ネタ?そんなわけないよね、タモリ倶楽部にも元ネタあるよね?
と気になってツイートしてみたらフォロワーさんが答えを教えてくれた。嗚呼、素晴らしき集合知よ。
「のど飴もっと舐めろよ!」というプロパガンダ
というわけで判明した元ネタは国立出版社レニングラード支部の広告ポスター「あらゆる知についての書籍」。
このポスターをデザインしたのはグラフィック・デザインの父とも呼ばれるアレクサンドル・ロトチェンコ。ロシア革命後に発展したロシア構成主義(単に構成主義とも)を代表する美術家、彫刻家、写真家、グラフィック・デザイナーだ。デザインを勉強した人にとっては割と常識っぽいので、何を今更と言われてしまうかもしれない。無知こわい。
ポスターの女性は「本ー!」と叫んでいるらしい。ロシア革命を経て、「すべての人が本を読むようになることが革命だ!」と訴えるポスターのようだ。
元ネタが分かると冒頭ののど飴の広告は「みんなもっとのど飴舐めろよ!!」という想いの込められたプロパガンダなんだと想像できて面白い。知っている人だけが楽しめる様式美だ。
T-POINTのロゴは構成主義か
元ネタについてはよく分かったが、構成主義についてもう少し書きたい。
構成主義は「自律的な純粋芸術を否定し、実生活に役立つ芸術、また社会的目的のための芸術を創造すること」を目的とした、ロシア革命後の社会主義が生み出した芸術運動である。
革命後のロシアに広がった「工業的な経済発展こそが社会的な進歩である」という考え方から、工業的な実用物を使って抽象的な美や力学的な美を表現したのが構成主義の始まりだ。
ウラジミール・タトリンという人がこんな作品を作ってそれを「構成」と呼んだことから構成主義と言われるようになった。
さらに構成主義は美術だけでなく、建築、デザイン、舞台美術、写真など多くのジャンルに広がり、当時のロシアの造形分野における支配的な様式となっていく。
先程のポスターを作ったロトチェンコは幾何学図形と直線を重んじて、インパクトのあるポスターをいくつも手がけている。
どのポスターもメリハリがはっきりしていて、整然とした美しさがある。僕は工場みたいな人工的にきっちり作られたものとか、きれいに並んだパイプとかに良さを感じるタイプなので、構成主義はばっちりはまってくる。
んで、この構成主義はその後の芸術運動にも大きな影響を与えていて、現代アートの始まりという人もいるくらいだ。ドイツでグロピウスが立ち上げたバウハウスなどには直接的に影響を与えている。バウハウスは現在まで続くモダニズム建築にも繋がっており、機能主義や合理主義の走りもこの構成主義と言えるかもしれない。
グロピウスの設計したバウハウスのデッサウ校はモダニズム建築の傑作として世界中に知られているが、きっぱりとした直線によって構成された建物はロトチェンコのポスターを感じさせる。どこを見てもまっすぐで見ていて気持ちが良い。
構成主義的な手法は何も過去のものではなく、今でも現役だ。
JR東日本のポスターとか
横尾忠則の展覧会のポスターとか
横尾忠則の作るポスターはどれもこういうテイストだけど、少なからず構成主義やロシア・アバンギャルドの影響を受けていると思う。
あとはデザイナーの佐藤可士和が作るロゴも構成主義っぽさがある。
ユニクロとかT-POINTとか今治タオルとかホンダのNシリーズとか。さすがに構成主義だ!と言い切ることはできないが、構成主義のかほりは十分感じる。
こうやって見てみると構成主義的な手法を使うとシンプルな中にも力強さが出てくる。ロシア革命直後の「新しい時代を作っていくんだ」という若くて強い気持ちが、構成主義の中には宿っているのだ。
動画を見て気になったところからずいぶん長々と書いてしまったが、構成主義というものをざっくりと整理できる良い機会になった。
きっと70周年を迎えたロッテも「新しい時代を作っていくんだ」という想いを胸に、これからも美味しくて楽しい商品を生み出していってくれるに違いない。