2018年1月に見た展覧会と2月の気になる展覧会まとめ

ここ何年か、気になる展覧会には大小問わず足を運んでいるが、感想をツイッターに書き込む程度で終わらせてしまっていた。

ただせっかく行くんだったら、感じたことや知ったことをちゃんとまとめておいた方がいいなと今更ながら思ったので、今年からは月ごとに行った展覧会と翌月の気になる展覧会を簡単にまとめておくことにする。あくまでただの美術好きの個人的な感想なので悪しからず。

というわけで早速、2018年1月に行った展覧会です。

ルー・ヤン展 電磁脳神教 - Electromagnetic Brainology

会場:スパイラルガーデン[1月5日~22日]

なかなかパンチのある展覧会だった。ルー・ヤンは映像やアニメ、3DCGなどのデジタルメディアを駆使して科学と精神世界の繋がりを表現する中国の女性若手アーティストだが、ほんとにその若さが爆発していてもう圧倒されるばかりだった。展示を言葉で説明しにくいんだけど、分かりやすく言うと水曜日のダウンタウンのオープニング映像をもっとやばくした感じ。

逆さまの顔の下でアイドルの踊る映像が流れてる意味の分からなさ

ルー・ヤンは、小さいころから親しんでいた日本のアニメや漫画、アイドルといったサブカルチャーに影響を受けて作品を作っているそうだが、それを神、つまりは人間が作り出した精神世界と融合させてめちゃめちゃパワフルな電脳世界を創り上げている。もはやちょっと怖いくらいの過激さなんだけど、だからこそ心を揺さぶってくるものがあった。アウトプットの過激さに引っ張られて作品の意図という部分はあまり理解できなかったけど。

ルー・ヤンのインタビュー記事があったので貼っておく。

https://www.cinra.net/interview/201710-luyang

これ読むと彼女の想うところがかなり分かるので展覧会で見た作品の理解もかなり進む。この展覧会が日本では初めての大規模個展ということで、これからも注目のアーティストだ。

アジェのインスピレーション ひきつがれる精神

会場:東京都写真美術館[17年12月2日~18年1月28日]

ウジェーヌ・アジェ《ショワジー館、バルベット通り8番地》 1901年

ウジェーヌ・アジェは19世紀末~20世紀初頭のパリで街並みを撮りまくることでドキュメンタリー写真を芸術的な文脈へと昇華させた第一人者でもあり、近代写真の父とも呼ばれている。僕の好きな写真家でもあるのでぜひ見に行きたい展覧会だった。

ドキュメンタリー写真とは記録写真のことであり、何かを記録するため写真という意味なのでつまりはカメラの存在意義とも言えるわけだが、アジェはパリの街並みを30年に渡って黙々と撮り続けたことで、そこに芸術的要素を見出す余地を与えてくれた。もっとも、アジェ本人に「芸術」という認識があったわけではなさそうで、実際に彼の写真が注目され始めるのは亡くなる2年前、マン・レイがシュルレアリスムに通ずるものがあると雑誌上で言及してからだった。

マン・レイならずとも、展示されている写真を見れば、そこに芸術性を感じざるを得ない。広場に集まり同じ方向を見つめる人々や、かっこいい形の建物、植物をモチーフにした手すりの模様まで対象は様々だが、構図の面白さや美しさが光る写真ばかりだ。最近流行りの街歩きは「街の中の面白いものを見つける」というのが主題だと思うが、その真髄をアジェの写真には感じる。僕も街歩きが大好きなので、アジェの視点は大いに参考になるし、あらゆる視点をアジェがやりつくしてる感もあってもう本当に脱帽である。

この展覧会ではサブタイトルに「ひきつがれる精神」とあるように、アジェ以降の彼の精神を感じさせる写真家の作品も出展されている。マン・レイ、ベレニス・アボット、ウォーカー・エヴァンズ、リー・フリードランダー、荒木経惟、森山大道など。個人的にはウォーカー・エヴァンズの作品が“アジェみ”が強くて好きだった。実際かれはアジェに感銘されて写真を撮り始めたらしく、アジェの作品について「アジェは自分自身を写真に投影している」と語っている。あと日本写真界の重鎮である荒木経惟が過去に「やっぱり<私情>がなくちゃね。やっぱりアジェだね。」という発言を残しているのも、凄味があって良い。

最後にほぼ日にアジェについて書かれた記事があったので貼っておく。

https://www.1101.com/photograph/2006-12-22.html

たまには、そんなアジェの写真を観ながら、
ぜひとも、お散歩気分を味わってほしいと思っています。
そして、もしも気が向いたら、
あなたのお気に入りの街にふらりと出かけて、
気になった場所があったときは、
その場所に、しっかりと足を止めて、
あらためて、アジェのように
いい写真を撮ろうなどという欲も捨てて、
ただ、まっすぐにその街並みの表情を、
ゆっくりと写してみてください。

僕が伝えたかったのもそういうことです。

におい展

会場:池袋パルコミュージアム[1月12日~2月25日]

パルコミュージアムが渋谷から池袋に移ってまだ行ってなかったので行ってみた。

シュールストレミングやくさや、臭豆腐、足、加齢臭などの激臭からいい匂いの香料まで色んなにおいが置いてあってひたすらそれを嗅いでいく展覧会。日常生活でこんなに長時間クンクンし続けることがないので鼻が疲れた。

においがパルコに充満するとやばいので臭いアイテムたちはそれぞれ扉つきのブースに区切られ、さらに厳重にアクリルケースの中にいれてある。においを嗅ぐときはケースの上のシートをめくってクンクンするんだけど、臭いと分かりつつも自ら嗅ぎに行く人間の好奇心の強さが垣間見える展覧会ともいえる。

実際、シュールストレミングとかドリアンってなかなか個人では入手しづらいし入手したところで処理に困るので、一度でいいからにおいを体験してみたいって人にはまたとない機会かも。そういえば、昔インターネットで購入したけどどこで開けていいかわからず5年くらい放置したシュールストレミングが実家の冷蔵庫の中に眠ってるな…あれどうしよう、まじで。

肝心のにおいだけど、シュールストレミングはやっぱり尋常じゃない臭さだった。あれを食べるとなると食べる瞬間は我慢できてもそのあとずっと自分の口からあのにおいがするのには耐えられなさそう。スウェーデン人は寒さで鼻の機能が低下しているとしか思えない。ドリアンとかくさやは全然大丈夫だった。ドリアンなんかはむしろちょっとくせになるにおいで帰り際ににおいのおかわりをしてしまった。

個人的に一番きつかったのは足のにおい。シュールストレミングとかはゆうても食べ物だから心のどこかで許せるにおいだったけど、足、お前はだめだ。日常生活で誰もが嗅いだ事あるにおいではあるが、改めてクンクンすると思わず笑っちゃう臭さ。最終的に足のにおいには気を付けようという当たり前のことを実感して終わる展覧会だった。

レアンドロ・エルリッヒ Cosmic&Domestic

会場:アートフロントギャラリー[1月19日~2月25日]

森美術展で大規模展覧会を開催中のレアンドロ・エルリッヒの新作が展示されている。金沢21世紀美術館にあるプールの作品の人。

新作1点目はその名も《Laundry(乾燥機)》 回り続ける洗濯物を見ているとあたかもコインランドリーで乾くのを待っているような感覚に陥るが、その洗濯物は映像で実際にはそこに「乾かす」という行為は存在していない。「リアル」とは何だったのかを改めて感じさせる作品。

もう一つの新作《Elevator Maze(エレベーターの迷路)》は6個のエレベーターの箱が並ぶ。一見、全面に鏡が貼られたエレベーターの様に見えるが、実は隣の箱とつながっており、それぞれの箱に人が入るとエレベーターのパラレルワールドが広がるような不思議な感覚を体験できる。これは言葉では伝わらないのでぜひ実際に体験してほしい。この作品も、エレベーターというどこにでもある存在のあるべき姿が揺らぐとき、改めてエレベーターという存在の意味を考えさせられる構造になっている。

レアンドロ・エルリッヒの作品はどれも日常にありふれたモノの思いがけない一面を見せてくれるが、近年はより日常に根付いた身近なものをテーマに作品を作っているという。テーマが身近であればあるほど鑑賞者の混乱や驚きは高まるので、ますます面白い作品が出てくるに違いない。今後の作品にも期待が高まる。

行ったのが初日でレアンドロ・エルリッヒご本人が来ていたのでツーショットを撮ってもらった!

清水玲 grassroots prophet

会場:LOKO GALLERY[1月16日~2月15日]

清水玲というアーティストは知らなかったのだが、文字をテーマにした作品ということで面白そうだったので行ってみた。

ギャラリーに入るとまず目に入るのが壁一面に漢字やカタカナもしくはそれらの一部のパーツが散らばっている作品。漢字やカタカナが「文字」としてこの世に現れる前の「思考空間」にも見えてくる。ちょうど今、宮部みゆきの『悲嘆の門』を読んでいて、それがそんな話なのでついそんなことを考えてしまう。

展示の構成も面白くて、この木製の筒の内側には壁面にびっしりと文字のパーツが貼り付けられているんだけど、1階から筒をのぞくと鏡によって2階の映像作品が見えるつくりになっている。で、その映像作品というのが「逆さ歌おばあちゃん」として有名な中田芳子さんのインタビューと逆さ歌。これが鏡に映って反転しているのが無数の文字のパーツ越しに見える。逆さ歌が逆さになっていて、その間には文字の欠片が散らばっている。言葉で伝えるのが難しいのだけれど、この装置によって清水玲は日常的に使われる文字の背後に太古から潜む「無意識」や「空気」を可視化しようと試みているのだ。

分かったようなことを書いたけど、そんなに大げさなことじゃなくて、文字とか言葉とかって自分が認識しているよりも大きな力が秘められているんだなぁとぼんやり思ったりした。

以上、1月に鑑賞した展示でした。

次に2月の気になる展覧会をどうぞ。

MJ’s FES みうらじゅんフェス!マイブームの全貌展 SINCE 1958

会場:川崎市 市民ミュージアム[1月27日~3月25日]

みうらじゅんファンとしては見逃せない展覧会。実は1月28日にみうらじゅんと山田五郎のトークショーがあったので申し込んだのだけど落選してしまった。残念!2月4日くらいからその時の映像も見られるようなのでそれ以降に行きたいと思う。

en[縁]:アート・オブ・ネクサス――第15回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館帰国展

会場:TOTOギャラリー・間[1月24日~3月18日]

TOTOギャラリー・間は建築関係の企画展を開催しているギャラリーで無料のギャラリーとしてはかなり内容が充実していておススメ。昨年の7月から約半年お休みしていたので久しぶりの展示なので楽しみだ。

現代美術に魅せられて―原美術館コレクション展(前期)

会場:原美術館[1月6日~3月11日]

日本を代表する現代アートの美術館である原美術館、その創立者であり現館長の原俊夫が初めて自ら作品を選びキュレーションを行った展覧会。前期では1980年代前半までの収集品から作品をセレクトしている。ジャクソン ポロックやマーク ロスコ、世界を席巻したポップアートの代表者であるアンディ ウォーホルやロイ リキテンシュタイン、日本の作家では今も現役で活躍する草間彌生、篠原有司男、杉本博司、さらに世界に影響を与えたアジアの作家として、ナム ジュン パイク、艾未未(アイ ウェイウェイ)といったそうそうたるメンバーの展覧会となっており見逃せない。

恵比寿映像祭

会場:東京都写真美術館 他[2月9日~2月25日]

毎年恒例の恵比寿映像祭が今年でついに10回目を迎える。僕は第4回の恵比寿映像祭を見てからほぼ毎年行っているのでこれで7回目だ。公式ホームページによると、

 映像は、光と影によってイメージを映し出すメディアであり、世界を光によって照らし出す一方で、同時に、可視化できない現実を浮かび上がらせる特性をもちます。第10回恵比寿映像祭では、映像が潜在的に表現してしまう、この不可視性=「インヴィジブル(見えないもの)」を総合テーマにすることで、映像の見方の歴史を考察し、現代における「インヴィジブル」を読み解くことから、未来の可能性を探っていきます。

ということで、今年のテーマもなかなか抽象的ではあるが、少しでもインヴィジブルを見つけ出したい。

奈良美智 Drawings: 1988-2018 Last 30 Years

会場:Kaikai Kiki Gallery[2月9日~3月8日]

奈良美智といえば目が大きな女の子のドローイングで有名だが、この度村上隆が主宰するギャラリー「Kaikai Kiki Gallery」の取り扱い作家となることが発表された。こちらはそれを記念した展覧会となる。これまで青森県立美術館と原美術館でいくつかの作品を見たことしかなかったので、作家のこれまでを歩みを振り返るこの展覧会にはぜひ行ってみたい。

今のところこんな感じ。いくついけるか分からないけど。

ではまた来月。

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