姫野チヱ子は六本松の地霊となるのか

先日TLにこんなツイートが流れてきた。

コメダ珈琲の前に「私有地 姫野チヱ子」と書かれためちゃくちゃ目立つ看板が3つも立っていて何やら不穏な匂いがする。そもそも誰なんだ姫野チヱ子。ツイート主も「何かトラブル発生か?」と書いているが、一体ここで何が起こっているのだろう。

気になったので調べてみた。

まずこのコメダ珈琲は福岡市の六本松交差点にある「コメダ珈琲店 福岡六本松店」だった。


この交差点は福岡の中心部である博多・天神にほど近く、交通量の多い交差点のようだ。

このコメダ珈琲は今年の2月末にオープンした新しい店舗なのだが、問題の姫野チヱ子私有地看板はどうやらコメダ珈琲が出来る前から立っているらしい。下記は2019年5月のツイート。

かなり圧が強い。詳しいことは分からないが「姫野チヱ子やばそうなやつだから近づかないほうがいいな…」ということは分かる。あと一番左だけ文字の配置を変えていて謎のこだわりが感じられる。

冒頭のツイートを見たとき、コメダ珈琲ができた後に土地の所有者(姫野チヱ子)が看板を立てたのかと思ったがどうやらそういうわけではないようだ。

六本松交差点について調べると、この交差点は慢性的な渋滞&無理な車線変更に伴う追突事故等が発生するポイントらしく、国土交通省 九州地方整備局がこの交差点の改良工事を行うことを文書で発表している。データの名前からこの発表が行われたのは2019年5月と思われる。

文書の概要にはこうある。

本事業は、福岡市が実施する市道博多駅草ヶ江線の拡幅事業及び福岡市が計画主体である九州大学跡地開発と一体となって、六本松交差点上り線の右折レーン2車線化、六本松駅前交差点下り線の左折レーン設置及び上り線のバスカット設置を実施することにより、交通事故防止を図るものです。

改良点としては

①六本松交差点上り線の右折レーン2車線化

②六本松駅前交差点下り線の左折レーン設置及び上り線のバスカット設置

の2つである。

このうち①は着々と工事が進み、昨年の11月末に工事が完了している。

さらに今年の3月には工事の結果、どのくらい渋滞が解消されたのかも文書で発表されている。渋滞の長さが最大310mから最大20mにまで改善されたとのことでめちゃくちゃ工事の結果が出ている。

あとは②を実施すれば六本松交差点の渋滞や事故は大幅改善!となる予定だったが、そうは問屋、いや姫野チヱ子が卸さない。

どうやら姫野チヱ子はこの道路工事に伴う立ち退きに大反対しているようなのだ。

以下、姫野チヱ子私有地看板のある角の遍歴をGoogleマップのタイムマシン機能を使って見ていこう。

閲覧できる一番古い写真は2011年12月のもの。まだ以前の建物が全部残っている。

和菓子屋や居酒屋、町の定食屋などが並んでおり、いわゆる「再開発前の街並み」といった感じで風情がある。

この街並みが少なくとも2016年7月までは残っているのだが、2017年4月の画像でこうなる。

和菓子屋の隣の建物が消えている。ここにあったのは六本松整骨院だ。くだんのコメダ珈琲ができたのはちょうどこの整骨院の跡地なので、ここが姫野チヱ子の私有地である。

意外にも建物自体はこの区画で最初に姿を消していた。

2018年3月になると古き良き建物がきれいさっぱりなくなってしまう。

こうやって辿っていくと、この土地になんの所縁も思い入れもないのになんだか寂しくなってくる。

で、この画像をよく見ると整骨院よりあとに消えた建物の部分はガードレールで囲われている。これは国土交通省なりちゃんとした機関がこの土地は管理していますよーということだが、問題の姫野チヱ子私有地はガードレールで囲まれていない。

道路改良工事に向けて区画整理を続ける中、依然として姫野チヱ子私有地を公的機関の管理下におけていないことが分かる。

そして、2019年5月の画像には例の看板が出現している。

2019年5月のツイートでも晒されていた看板がGoogleストリートビューにもしっかりと記録されている。

2019年5月といえば国土交通省 九州地方整備局がこの交差点の改良工事を行うことを文書で発表した時期でもある。

これは推測だが、いよいよ工事が始まるとの発表を受けて姫野チヱ子は強硬手段としてこの私有地看板を掲出するに至ったのではないだろうか。

さらにこれで終わらないのが姫野チヱ子である。

2019年5月のストリートビュー画像を見ると黄色い私有地看板のとなりに赤い看板も立っている。これを拡大して見てみると「建貸地」と書いてある。

建貸とは土地オーナー側が建物まで建設した上で賃貸する契約で、ロードサイド型のチェーン店などでよく利用される。

コメダ珈琲もこの建貸を利用してここに出店することになったと思われるが、いくら人通りが多く売り上げが見込めるからといって、国土交通省が渋滞緩和&事故防止のために改良工事を予定している場所に自ら名乗りをあげて出店を決めるとは考えにく。

だとするならば、もちろんこれも憶測にすぎないが、姫野チヱ子の熱烈誘致によってコメダ珈琲の出店が決まったと考えるのが筋だろう。

建貸契約の場合土地オーナー名義で建物を建てるものの実際の建築費用は賃貸者側が払うことが通例だが、今回については一部土地オーナーが建築費用を負担するから出店してくれといった交渉もあったのかもしれない。費用負担があったとするならばコメダとしては邪魔でしかない私有地看板をそのまま残すというのも交渉として成り立ちそうだ。(あくまで憶測です)

一度お店ができてしまえば、そうそう簡単に立ち退かせることは難しいので、六本松駅前交差点下り線の左折レーン設置及び上り線のバスカット設置については当面実施されることがないだろう。姫野チヱ子はとりあえず自らの土地を守ることに成功したということになる。

以上がこの私有地看板について調べて分かったこと、そこから考えられることだ。

よく再開発が進む街中に1軒だけめちゃめちゃ古い家屋が残っているのを目にする。それをみて「土地への愛着が凄まじい頑固者がいるんだな~」と感じることはあったが、それはあくまで「住んでいる場所」なわけで、多少その気持ちも理解できる。

しかし今回は自分が住んでいる場所でもないわけで、そこにコメダ珈琲まで誘致して物理的に工事できなくしてしまうとは、姫野チヱ子のツワモノ感がひしひしと伝わってくる。住んでないので姿が見えないわけで、それも禍々しさに拍車をかけている。

ゆくゆくはこの私有地看板も消えて、普通のコメダ珈琲になるのかもしれない。それでも「姫野チヱ子」という名前だけが人々の記憶に残って土地の神話みたいになっていったら面白い。東京でいう平将門みたいに。姫野チヱ子は六本松の地霊≪ゲニウス・ロキ≫となるのか。

まぁこの道路を使う人たちからしたらはた迷惑な話でしかないが。

福岡にいく機会があったらぜひこのコメダ珈琲に訪れて私有地看板を実際に見ておきたい。

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