北参道にある氷屋きみこというお店に家族でかき氷を食べに行った。
埼玉で紅茶の店をやっている紅茶王子という人がオープンしたティースタンドの脇で営まれているかき氷屋でオープンしてから間もない新しいお店だ。
◯◯王子と名乗る人は色々な界隈にいるがそういう人を見るたびに勇気があるなぁと思う。王家の血を引いていないのに自分から王子と名乗る精神のタフさがすごいし、歳を取ったらどうするのだろう。いつかは紅茶王になるのかな?と妻に言ったらそういうことじゃないと言われた。そういうことじゃないのか。
カウンター5つ程度のこじんまりした店内だがその分店主であるきみこさんとの距離が近く、氷をいただきながら色々なお話を聞くことができた。
かき氷のメニューにはユニークな名前がついている。僕らが頼んだのは「あなたに苺とシルバーリング」と「恋愛偏差値40」だ。
この店の氷は全て例の紅茶王子がブレンドした紅茶をシロップに使用していて、この紅茶には全て女性の名前と職業や趣味、性格などのストーリーが用意されている。
夜な夜な自分が作った紅茶に名前をつけてどんな娘か妄想を膨らましている王子を想像するとその国の行く末が心配になってくるが、まぁそれはいいとして、このかき氷の名前も使われている紅茶の女性のストーリーから名付けられたものなのだ。例えば「あなたに苺とシルバーリング」の女性は彫金師で最近アクセサリー屋さんをオープンしているという設定である。
どちらも渋みの全くないめちゃくちゃフルーティーな紅茶シロップが存分に生かされていてすごく美味しかった。6年半近くかき氷を食べ歩いてきた我が夫妻が美味しいと言うのだから相当に美味しいと思ってもらって良い。もちろん紅茶シロップだけではなく、氷の中にスポンジやアイスクリームが入っていたりと、氷自体の独創性もクオリティが高い。
店主のきみこさんは家庭料理研究家で手軽にできて美味しい家庭料理のレッスンをしたりお弁当レシピの本を出したりしている。
かき氷屋を始める人によくあるのが自分自身もかき氷が好きで色々食べ歩くうちについに店を始めてしまったというパターンだが、きみこさんはそうではない。
とある縁で吉祥寺にある氷屋ぴぃすでかき氷を食べた時に、今まで自分が研究してきたおにぎりとかき氷が似ていると感じたのだという。
中はフワフワなのに外側はしっかりしていて崩れない、その絶妙な食感は誰でも出来るものではなく作り手の微妙な力加減やかき氷機の扱い方によって生み出される。
そんな部分におにぎりとの共通点を感じかき氷屋を始めたのだと教えてくれた。
これまでたくさんかき氷を食べ歩いているがその発想はなかった。かき氷とおにぎり。真逆と言ってもいい位置にいそうな両者だが、氷が米、シロップが具と考えたら構成としても似ている。定番のいちごのかき氷は鮭おにぎりといったところだろう。
かき氷は食べ歩いているファンも多く1つのジャンルとしてかなり確立されている。それ故にちょっと参入障壁が高いというか、お客さん(かなり食べ歩いているユーザー)のお目が高くなっていて、うまく言い表せないのだが氷ってこういうものだよね感が醸造されてしまっている感じが最近する。
そんな中で、かき氷についてこれまでほとんど知識なく食べたこともなかったきみこさんのような方が、界隈にいなかったからこそのかき氷とおにぎりが似ているという新しい視点と個人的な想いでかき氷屋を始めたということが、純粋に良いなと思ったしなんだか嬉しかった。それでいて提供する氷が絶品なのだから文句なしだ。
この日はそこまで混んでいなかったのできみこさんが即興でおにぎりを握って食べさせてくれた。中が柔らかいのに型崩れすることのない美味しいおにぎりだった。
たくさん食べているとどうしても他と比べてエセ評論家みたいな態度をとってしまいがちだが、そんな比較の意味のなさをこのおにぎりが教えてくれるような気がした。