こんばんわ
今日は渋谷アツコバルーで開催中の「『シェアリング・バイブス 共振する場、そして私』展」で行われた山川冬樹さん(@yamakawafuyuki)のワークショップに参加してきた。
この企画展で山川さんが出している作品は、渋谷ウォーター・ウィッチングというもので言い換えると水の流れをダウジングすることでその流れの音を採取した作品だ。企画展の説明をそのまま引用した方が分かりやすいのでそうする
渋谷には泉があり川が流れている。しかし東京オリンピックの時に生活排水で汚れてしまった川は地下に埋められた。その上にセンター街や宇田川遊歩道ができた。山川冬樹は渋谷の地下水脈をたどり100カ所のマンホールから聞こえてくるせせらぎの音を採取した。深夜街で寝そべりマンホールに耳を当てると様々な水の音が聞こえる。ホーミーで鍛えた山川の耳には音階が聞こえてくるという。聞いているうちに渋谷がだんだん好きになったという。都市をインフラから診察する。
こんな作品のワークショップということで渋谷の街を歩き回り実際にマンホールに直接耳をつけて、山川さんの言葉を借りれば、「外耳とマンホールを直接つなぎ大都会の中で自然と一体化」してみるというフィールドワーク型のイベントであった。
こんな感じで地面に這いつくばる。センター街では人目もかなり集めてしまう。ちなみに写真は山川さん。めちゃくちゃ様になっている。
実際に水脈にそって街を歩くことで今まで知らなかったことをたくさん知ることが出来たのでまとめておきたい。
これが山川さんが実際に水のせせらぎを診てまわった100箇所の地図であるが、今回のフィールドワークでは地図の中心辺りにある星マークのアツコバルーから、鍋島松濤公園へ、次に神泉の弘法湯、センター街へ移動し少し宇田川を上流へ登ってから、最後に宮下公園まで向かうというなかなか盛り沢山の内容だった。
まず向かったのは鍋島松濤公園だ。この公園にある池には現在も湧き水があり公園入口のマンホールでは勢い良く流れる水の音が聞こえた。ここで聞いた話に松濤という地名の由来がある。もともとこの地域ではお茶作りが盛んであった。そのお茶を作る際に茶っぱを火でいぶすわけだが、その時の火の音が、まるで松風(松林にうちつける風のこと)のようであり、また大きな波が打ち寄せる音(濤という字は大きな波の意)のようでもあることからこの地域一帯を「松濤」と呼ぶようになったそうだ。また山川さんの言葉を借りれば、松濤という地名は「地名に見るサウンドスケープ」なのである。
次に向かったのが神泉の弘法湯である。神泉という地名は、その昔この地を訪れた弘法大師が杖で地面を叩くと温泉が湧きでた。という話が元になっているという説がある。弘法大師は全国で温泉を沸かせており(弘法大師伝説についてはこの記事が面白い)その真偽は各自の判断に任せるとして、そのお湯を沸かせた場所が「弘法湯」なのである。
明治時代に風呂屋として開業した弘法湯はこの辺り一帯で最も活気ある場所となり、弘法湯を中心にいわゆる「花街」が発達したのである。現在は弘法湯は埋められてしまってその姿を確認することは出来ないが、その場所にはこんな石碑が残っている。
「右 神泉湯辻」と書かれており、これはもともと道玄坂の上に立てられていた案内板のようなもので、「ここを右に行くと弘法湯がありますよ」と知らせるものだったらしい。それが弘法湯が埋められた時に弘法湯の場所の地主の元へと帰ってきたという。この話は違う回のフィールドワーク中に地元のおじさんが教えてくれたらしくそういう出会いがあるのもフィールドワークのいいところだ。
弘法湯が埋められた現在もそこから水が湧き続けているのか、というのは調べても分からないらしいがこの周辺のマンホールはいつも流れる水の量が多く、今だに水が湧き続けている可能性も高い。すぐ下なのに分からないことの多い地下に「下水」を通して想いを馳せるのもまた楽しい。
神泉の駅からセンター街の方へ向かう2本の道は谷の底になっており多くの水が流れていることがわかる。またこの辺りはラブホテルが乱立しているのでマンホールからシャンプーの匂いが漂ってくることもしばしばだとか。
さて場所をセンター街に移し、いよいよ宇田川の上を探索する。今までの水路は全てもともと用水路であったものだが、センター街の下を流れる宇田川幹線はもともと正真正銘の川だったため流れる水量も今までより格段に多くなっている。宇田川交番横にあるファミマの前のマンホールからは勢い良く流れる水の音が聞こえた。ただ松濤公園の前のマンホールなどに比べるとせせらぎは遠くに感じられ、暗渠が深く掘られていることが分かる。ちなみにこのマンホール周辺は常に人がたくさんいるため奇怪な目線を寄せられることは間違いない笑。
そんな宇田川を下ると線路を越えたすぐのところで渋谷川と合流する。このすぐ手前の西武百貨店前の交差点上にあるマンホールはスリットが大きくなっている。これは谷底になるにつれ集まってくる水や空気により高くなった水圧や気圧を出来るだけ逃がすための工夫だという。思いもみなかったところに都会の知恵が詰まっている。さらに渋谷川との合流地点に位置するマンホール、またもや山川さんの言葉を借りれば、「マンホールの王様」からは常に轟々とした水の音が聞こえ、生暖かく湿った風が吹いていた。
そして最後にとっておきのスポット「渋谷の湧き水が飲める」場所を紹介したい。
センター街から109の方に抜ける小道にある地下鉄の入り口を入り改札階まで降りるとその壁伝いの細い溝に透明な水が絶え間なく注いでいる。これは下水ではなく、渋谷の地層から滲みでた地下水だという。渋谷という地名の由来の一つにこの辺りを流れる川の水はとても鉄分が高く、渋みが強いことから渋谷という名前がついたというものがあるが、その説を裏付けるかのようにその地下水が流れる溝は茶色く錆び付いていた。ここにちょろちょろと水が流れていることは知っていたが、単なる下水だと思っておりまさか地下水だとは思っていなかったのでとても驚いてしまった。
つらつらと書き連ねてきたが、今回のワークショップでは多くの新事実を知ることが出来た。そして一番勉強になったのは「都市はアプローチの仕方によって様々に表情を変える」ということだ。長年親しんでいる渋谷という街にこんな「見方」があるとは思わなかった。街を、都市を生命体として捉えた時、こんなにも確かな「都市が脈打つ音」が聞こえてくるのだ。
自分なりにどう都市を、建築を、自然を捉えていくのか。そんなことを考えながら日々を送ることが人生を楽しく生きるこつなのかもしれない。
「シェアリング・バイブス 共振する場、そして私」展は10月6日までやっているので気になる方はぜひ。