ずっとハンドドライヤーに注目している。ハンドドライヤーとは公共のトイレに付いている手を乾かすための機械だ。誰でも一度はブワァーっとやったことがあるだろう。
そんなハンドドライヤーが予想以上に面白い。「どれも一緒だろ」という声が各方面から聞こえてきそうだが、侮るなかれ、意外と個性的なのだ。今日はハンドドライヤーの奥深い世界をお伝えしたい。
始まりの一台
まずは私がハンドドライヤーに注目するようになったキッカケを作った一台を紹介したい。
それがこちら、渋谷駅の東急百貨店地下、東急フードショーという食品コーナーのトイレにあるハンドドライヤーである。機種はトイレまわりでお馴染み、TOTOのクリーンドライ高速タイプで、特に珍しいものではない。
しかし、少し離れて見てみると、このハンドドライヤーの特別感が分かる。
そう、このハンドドライヤーの収まる場所がすごく豪華に設えられているのである。
普通は手洗い場の横にちょこんと備え付けられていることが多いのだが、ここでは専用のパネルに取り付けられ、さらには裏から照らされて輝いている。後光が差しているハンドドライヤーはなかなか見られない。このトイレの御本尊的存在であると言っても過言ではないだろう。
このハンドドライヤーを見てからというもの、他のトイレでハンドドライヤーがどんな扱いを受けているのか気になって仕方なくなってしまった。こうして、そんなに尿意はないけどハンドドライヤーを見るためにトイレに入る生活が始まったのである。
すぐに見つかる!定番ハンドドライヤー
個性的とは言え、そんなに広い業界ではないし、よく見かける機種は限られてくる。
最もよく見かけるのはやはりTOTOのクリーンドライ高速両面タイプだ。
両面から風があたり手を抜き差しするだけで乾くタイプだが、このタイプはコンパクトな故、手揉みをするスペースがない。あらかたの水滴は飛ぶものの、完全に湿り気を取り除きたい層にとっては、先程紹介した東急百貨店の高速タイプの方が適していると言える。(私は高速タイプの方が好き)
個人的な感覚では最近オープンした商業施設では7割方、このクリーンドライが導入されているのだが、同じ機種でも個性がある。
2016年3月にオープンした東急プラザ銀座でもクリーンドライ高速両面タイプが導入されていたが、ここのはやたらと青く光っている。全く光っていないものも多いが、この光の強さは設定できるのだろうか、気になるところである。抗菌的な色味ではあるが、入口にぽつんと置かれたその姿は、これからトイレというダンジョンに向かう者たちのセーブポイントのような佇まいを見せている。
ただ、光るという点でいけば、もっとすごいやつがいる。
東京エレクトロンのエアータオルというハンドドライヤーである。あまり聞き馴染みのないメーカーかもしれないが、実は東京エレクトロンは日本で初めてハンドドライヤーの製造販売を始めた由緒正しいハンドドライヤー専門メーカーなのだ。そんなメーカーが販売するこのエアータオルはこれでもかというほど青く光っている。ちょっとしたホタルイカ漁だ。ついついハンドドライヤーにおびき寄せられてしまう私は既に水揚げされているのかもしれない。(うまくはない)
また、ハンドドライヤーの設置の仕方にも施設ごとのこだわりが感じられる。
池袋のサンシャイン60展望台は2016年4月にリニューアルオープンしたが、ここでは三菱電機のジェットタオルスリムタイプが採用されていた。直線的なフォルムがスタイリッシュでハンドドライヤー界では一番のイケメン機種である。後ほど紹介するが、カラーバリエーションもあって、私が一番好きな機種でもある。
設置されている場所に注目してみると、洗面台の間にぴったり収まる形で置かれている。ここのようにあまり広くないトイレに多い省スペースな設計だが、この設置方法が最近増えてきているような気がする。この設置方法だとハンドドライヤーの存在感も薄くなってしまい、ファンとしては少しばかり寂しさを感じてしまう。
なんてことを思っていたら、さらに存在感を消されたハンドドライヤーを見つけてしまった。
2015年12月にオープンした浅草まるごとにっぽんのハンドドライヤー(機種はこちらもTOTOクリーンドライ高速両面タイプ)である。専用の凹みの中にすっぽりと収納され、その全貌をうかがい知ることすら出来ない。洗面台の間に設置されているのは広さ的な制約で仕方ないものではあるが、こちらは明確にハンドドライヤーの存在感を消そうとしている。ハンドドライヤーが我々に何をしたというのだろう。
電線が地下化されるように、おそらくハンドドライヤーも今後どんどん隠されていくのだろうがファンとしては断固としてハンドドライヤーの解放を進めていかなければいけない。ただ、どこに訴えればいいのか全く分からないので知っている人がいたら教えてほしい。
さて、先程のサンシャイン展望台、三菱電機ジェットタオルの色違いも紹介したい。
東京駅そばにある商業施設キッテ2階にあるのがジェットタオルスリムタイプのシルバーだ。シルバーとブラックのコントラストによる本体のスタイリッシュもさることながら、設置されている壁のウッドなテイストと本体のコントラストも相まってとてもモダンな雰囲気を醸し出している。これが私の一番のお気に入りハンドドライヤーである。
ちなみに三菱電機のジェットタオルにはスリムタイプ以外に、より強力なハイパワータイプも用意されている。
スリムタイプに比べると厚みも大きさもあるが、風圧が強くなりより手軽に乾かすことができる。映画館など一度に多くの人がトイレを利用する施設でよく見かけることができる。TOHOシネマズでは新宿以外でもこのハンドドライヤーを導入しているところが多いので、強い風を感じたい人は映画を見に行くとよいだろう。
まだまだある!少数派ハンドドライヤー
ここまで比較的定番のハンドドライヤーを見てきたが、その他にもハンドドライヤーを出しているメーカーはいくつかある。
先程のTOHOシネマズと同じく新宿にある映画館ピカデリーではパナソニックのハンドドライヤーが使われている。パナソニックが展開するのはパワードライというシリーズで、最新型はTOTO製クリーンドライ高速両面タイプと似たような形をしている。実はそれは私も見たことがない。おそらく新しく導入する場合はTOTO製か三菱電機製を選ぶ場合が多いのではないだろうか。
写真のタイプはロゴを見ても分かるようにNational時代のモデルであるが、街中で見かけるのはこちらのタイプが多いような気がする。手をいれるスペースが大きくてけっこう使いやすい。個人的には最新型もこの形状を維持してほしかった。
この機種のもうひとつの特徴はシルバーの天面部分が広いため、ここに細かい使用方法が記入されているところなのだが、この天面部分をフル活用しているのがこちら。
そう、空港内のハンドドライヤーである。広い天面を利用して、4カ国語の説明書きを記載しているのだ。こんなところにも日本人のおもてなし精神を感じることができる。
その他にも
家まわりではなんでも揃うLIXILのスピードジェットや
風の出る電化製品といえば忘れてはいけない、ダイソンのエアーブレードなんかもある。
ダイソンは言われてみれば確かにハンドドライヤーも得意分野だと納得できるが、全くイメージがなかったので初めて見つけたときには興奮を隠しきれなかった。
しかし、この驚きを超えてくるのがダイソンである。
2016年3月に新宿にオープンしたニュウマンの中で見つけたこちらは、蛇口と一緒になった全く新しいタイプのハンドドライヤー、ダイソンのエアーブレードタップだ。
蛇口の下に手をかざすと水が、両脇に伸びた枝のような部分の下に手をかざすと風がでてくる画期的なハンドドライヤーである。もちろん風圧は普通にハンドドライヤーに引けをとらない、むしろ強いんじゃないかというくらいのハイパワーでダイソンの真骨頂を見せつけられた。思わず一回トイレに行って、20秒くらいしてまたすぐトイレに入ってしまった。二度見ならぬ二度ハンドドライヤーだ。新宿に立ち寄ることがあればぜひ一度体験していただきたい。
そんな進化を遂げるハンドドライヤーだが、古き良きハンドドライヤーも外せない。
どこで見つけたかを記録し忘れしまったのだが、こちらはINAXのハンドドライヤーである。INAXは現在LIXILに吸収されてしまったので、先程紹介したスピードジェットの過去モデルということになる。
このモデルのポイントは何と言っても前面に描かれたハンドドライヤーアイコンだろう。これだけを見せられても何のアイコンだか正直よく分からないような気もするが、ハンドドライヤーの仕事を端的に表そうとした開発担当者の努力が感じられて心が温かくなる。漢字の成り立ちを表す画像っぽいところも良い。
このスピードジェットだが、こんなタイプも存在する。
北千住の駅前にあるマルイの中に入っている劇場、シアター1010にはさらに愛くるしい一本足タイプがある。ハンドドライヤー界の王貞治である。おそらく今後新たにこのタイプが導入されることはないと思うので、記念碑としていつまでも大切にしていってほしい。
もう1つ紹介したいのが、こちら。
恵比寿で見つけたこちらのハンドドライヤーはお馴染みのTOTOクリーンドライの旧モデルであるが、その上部に注目してほしい。
いかにも早く乾きそうな字体で「速乾」と書かれたシールが貼ってあるのである。このシール、ここ以外でも貼られているのを見たことがあるのでこの施設独自のものではないと思うのだが、詳細がよく分からない。貼られているのはこの旧タイプのクリーンドライばかりな気がするので、この機種を買うともれなく速乾シールがついてきたのかもしれない。このシールだけ売ってないかな。
このスピード感のある書体が妙に心に残り、見つける度に速乾を体験してしまうのだが、最近のタイプには貼られているのを見たことがないので、こちらも絶滅危惧種として大切にしていきたい。
謎を呼ぶハンドドライヤー
様々なハンドドライヤーを紹介してきたが、最後にハンドドライヤー鑑賞中に遭遇した謎を紹介したい。
問題の舞台となったのはこちら。
2016年9月にオープンした銀座プレイスである。以前はサッポロ銀座ビルがあった場所に新しくできた商業施設だが、建坪面積が一般的な商業施設に比べてかなり狭いので、空間を有効活用するためにエスカレーターは上りしかなく下りはエレベーターのみ、など建物的にも色々と見どころの多いビルなのだ。
そんな銀座プレイスでももちろんハンドドライヤーチェックを行なった。
銀座プレイスにあったのはこちらのハンドドライヤー。一見すると何の変哲もない普通のハンドドライヤーだ。しかし何か引っかからないだろうか。
ここまでこの記事を読んできた皆さんなら、もうお分かりかもしれない。
そう、このハンドドライヤー、TOTOの最新式のクリーンドライではなく旧タイプのクリーンドライなのである。
これまで見てきたように、東急プラザ銀座やまるごとにっぽんなど最近オープンした商業施設で導入されたのはどれも最新式のタイプである。
今一度見比べて見ても最新式の方がスタイリッシュだし、おそらく環境性能もあがっているにちがいない。
なぜ銀座プレイスではあえて最新式ではなく旧タイプのクリーンドライを採用したのか、というおそらく世界で私しか悩んでいない謎を見つけてしまったのである。
考えられる理由としては、
①建物を建て替える前にハンドドライヤーだけ新調していて比較的新しかったため、もったいないのでそのまま使っている
②建築家あるいはデザイナーの強いコダワリ
という2つだろうか。特に②だった場合は是非そのコダワリを通した人に会って話を聞いてみたい。
一応、インフォメーションの人に聞いてみたのだが、案の定そんな理由を知るよしもなかった。これはどこに聞けば分かるのだろうか。いつか謎を解明して真相をお伝えしたい。
というわけで、ハンドドライヤーへの愛が溢れすぎてうっかり長くなってしまったが、少しは魅力が伝わっただろうか。
皆さんがすぐにでもハンドドライヤー鑑賞を始められるように、各社のハンドドライヤー商品名をおさらいしておこう。
TOTO → クリーンドライ
三菱電機 → ジェットタオル
東京エレクトロン → エアータオル
LIXIL → スピードジェット
パナソニック → パワードライ
ダイソン → エアブレード
似たような単語が多く紛らわしいので、ベン図的にもまとめておいた。
これであなたもハンドドライヤー通だ。
会社のトイレで仕事をサボってこれを読んでいるそこのあなた、トイレを出る時に会社のハンドドライヤーに注目して、ハンドドライヤーに思いを馳せながらこのあとの仕事も頑張ってほしい。