足下に新幹線が走る悦びとは

いま住んでいる家の近くに新幹線が通っている。

その新幹線がトンネルを通るポイントがある。

画像を見ていただければ分かるように、慶應義塾大学のキャンパスを突き抜けるようにトンネルが通っている。

このトンネルの上にあるのはグラウンドである。
つまりこのグラウンドは新幹線を足下に感じられる場所なのだ。

そう思ってグラウンドに立つとめちゃくちゃ興奮しないだろうか。

新幹線はたくさんのトンネルを通るが、多くはもっと長いトンネルで山を通しているものがほとんどだろう。しかしその場合、その山に登ったとしてもあまり新幹線が通っていることを実感することができない。かといって跨線橋のような短さではただ単に線路を避ける通路くらいにしか感じられない。

この150メートル程度のトンネルはちょうど良い長さであり、さらにその上がグラウンドになっていて足を踏み入れられるという点で、簡単にはお目にかかれないワクワクスポットなのである。

せっかくなので動画でもどうぞ

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実はこういう体験は初めてではない。

まず、俺は中学、高校と都内の私立大学の付属校に通っていたが、その時に体育などで使っていたテニスコートが道路の上に作られている。つまり学生時代は六本木通りの上でテニスをしていた。めっちゃ都会だ。

グーグルストリートビューから

使用時は特に普通のコートと変わりはないのだが、たまに下の道路を通る時などに「この上に学校があるんだなぁ」と感慨深くなったりする。

それは学校という外部と区切られたある意味では特別な空間と、街を構成する要素の中で最も平凡といってよい道路、そんな相反するものが重なり合っている不思議な状況にワクワクしているということかもしれない。

次に、学生時代に東北を旅した時にフェリーでやってきた八戸港から八食センターという市場まで歩いて向かっていた時に見つけた八太郎トンネルを紹介したい。

なかなか可愛らしい名前のトンネルだが、このトンネルの上にはその名も八太郎ヶ丘公園という公園が整備されている。

急ぐ旅でもなかったので、トンネルの上の公園という響きに引き寄せられて実際に登ってみると、東側には八戸港が、西側には八戸市街が一望できるなかなかに見晴らしの良い公園だった。

八太郎ヶ丘公園から眺める八戸港

ここでも、我が母校と同様に、港と街を行き交うトラックが昼夜を問わず騒々しい道路の状況と、その上に作られた公園の静けさとのコントラストが俺の心を捉えてやまなかった。
さらに、下水処理場の上に作られた公園も同じ理屈で好きである。

芝給水所(下水処理場ではないが)

下水処理場は広い面積が必要な施設であり、土地を有効活用するためにその上に公園が作られていることがよくある。

通常の公園と特に違いはないので子どもたちは無邪気に遊んでいるが、そんな姿を見ると「君たちはこの下で水が綺麗になっていると知ってて遊んでいるのか!?」と問いただしたくなる。実際にはそんなこと遊ぶ上では関係がないし、問いただすと不審者扱いされて学校に通報されるので聞かない。

落合水再生センター

浄水場という普段馴染みのない施設の上で、それを知ってか知らずか子どもたちは何の変哲もない日常を送っている。なんとアンビバレンスな空間なのだろうか。

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ここまでを踏まえて再び冒頭の新幹線を考えてみる。

環境としては俺の母校と似ているが通っているのが道路ではなく新幹線だ。この違いはかなり大きい。


母校の場合は

学校=特別な空間

道路=日常空間

というギャップが面白かったが、これが新幹線になると

学校=日常空間

新幹線=特別なもの

というように立場が逆転してしまう。それだけ新幹線はインパクトのある存在なのだ。

この印象はあくまで個人的なものなので、例えば出張しまくっている人などは新幹線を特別なものとは思えないかもしれないが、少なくとも俺にとってはまだまだ新幹線は速い=すごい=特別な存在である。

というわけで、実際に新幹線の上のグラウンドに来てみた。

この何の変哲もないグラウンドの下に新幹線が通っているのである。日常と非日常が隣り合わせになっているのだ。映画だったらこの場所がパラレルワールドとの接合部になること間違いなしだ。


ここから見ていると、自分の足下に向かって新幹線がすごい速さで突っ込んでくる。何となく自分の身体に新幹線が入り込んでくるような、そんな感覚すら感じる。

と思って振り返ると目の前に広がる普通のグラウンド。

日常と非日常が目まぐるしく押し寄せてくる。

そしてグラウンドをよくみると、こんな注意書きが。

こちらに蹴るな!外は新幹線!

注意書きを媒介にして日常に非日常が侵入してきている。
非日常をのぞくとき、非日常もまたこちはをのぞいているのだ。

日常があってこその非日常、これからもほどほどに非日常の悦びを感じていきたい。

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